お絵描きホーホー論

理屈で絵が描ける事を証明する

三点透視図法の縦パース講座(1/3) 〜縦パース作図における2つのポイント〜

以前の2つの視点を重ねて三点透視パース作画 〜建築パースとリアルパースの違い〜の記事では、三点透視図法における縦パースが生じる原理を「空間の視円錐」と「視界の視円錐」を使って解説しました。しかし、その記事の最後にも述べたとおり、縦パースにも二点透視と同じように画角が存在するということを仄めかして終わっていました。今回は三点透視の縦パースを理屈で描けるようになることを目標にします。

注)この記事は筆者が3点透視図法の原理を理解する前に書いたものです。あくまで学習記録としての記述であることにご注意ください。また、文中の「脳の補正」という表現は、垂直なものを垂直であると認知すると言う意味で、パースが歪んで見えるという意味ではありません。透視図法の不完全性を指すものではないことをご了承ください。人間の認知の仕組みについては科学的根拠が不足していることを念頭に置いてください。

三点透視の縦パースの2つのポイントとは

三点透視の立てパースについて現段階で分かっていることは、アイレベルより上側では上方に縮小し、下側では下方に縮小するということだけです。確かにこのことに従って縦パースを作画すればそれなりに三点透視の背景は描けます。しかし、やはりお絵描きパースを勉強している人が最も知りたいと思っていることは、パースラインをコントロールして表現したい空気を絵に宿すことです。そのためには建築パースのような作図方法ではなく、人間の脳が認識しているパースのお話や、カメラのレンズの画角の知識が必要になります。映画監督が映像演出するとき、完成品を人間が鑑賞することを前提にカメラレンズなどを選択して映像を創作しています。「人間が見る」ことと「画角の設定」、この2つが絵作りには欠かせません。

「人間が見る」こととは

では三点透視の縦パースについての2つのポイントについて、少しずつ切り込んでいきましょう。まず第一に知っておくべきことは、人間が風景を見るときには自分が認識しやすい都合のいい印象に変換されるということです。これは脳が空間を視認するとき、そこにある空間をそのまま写し取ることをせずに見慣れた構図になるように補正をかけるからです。なぜそのようなことが起こっているかというと、自分が存在する外界がどのような状態にあるのかを正確に分析して生存率を上げるためです。

例えば、目の前に一本の棒が垂直に立っていて、その角度を目測するとします。おそらくほとんどの人は棒が垂直に立っていることを認識できます。ここで一旦、その棒を見ている人たちを観察してみましょう。まさか全員が兵隊のように美しく直立姿勢で棒を見つめているということはないでしょう。姿勢が悪く首を傾げて観察している人、棒に対して首だけ向けて観察している人、もしかしたら寝そべって観察している人がいるかもしれませんが、棒が垂直に立っていることを認識できます。

人間の視点とカメラの視点の違い

とにかく垂直に立っているものは垂直に立っていると認識できないと、もしものときに目の前の空間がどういう状態なのか判断できません。人間は空間を視認したとき、空間の状態を分析するためにまずは垂直方向を基準に補正をかけているのだと思います。人間は危険回避するときにはちゃんと立ち上がって走るはずなので、そのときのシミュレーションとして常に垂直方向を基準にして認識しているのだと思います。だから安定感のある絵のレイアウトを考えるとき、画面内に垂直方向の縦パースがどのように配置されているかが重要になります。これが三点透視の縦パースの1つ目のポイントにあたる「人間が見る」ことの詳細です。ちなみに、いくら空間を認識するときに垂直を基準においても、そもそも自分の身体がどういう状態にあるのか分からなければ意味がないと思われるかもしれません。その問題を解決しているのは、自分の身体の平行状態を認識する機能を持つ器官の三半規管です。

もう一つ小話をば。いつか何かの本で読んだ養老孟司がしていた話です。人間が本を読むときには文字列を目で追いますが、そのときに注目している文字を視界の中心とすると、本の形状の長方形の輪郭と視界の中心点との相対距離は、文字列を追うたびに変化することになります。もし視界の中心に読みたい文字を持ってきたいのであれば、視線を固定した上で本を移動させればいい話です。ですが、実際にやってみれば分かると思いますが、このやり方では目の前で本がガタガタ揺れているような物なので煩わしくて読書どころではありません。それなのに、視線を動かして文字列を追うというごく一般的な読書のやり方だと、本の輪郭は止まって見えていると思います。これも脳が都合のいいように手ぶれ補正をかけているからだと養老孟司は話していました。このように、人間が見ている風景というのはありとあらゆるフィルターを通して認識されているものなのです。

「画角の設定」と「人間が見る」ことの関係性

続いて三点透視の縦パースの2つ目のポイントとなる「画角の設定」について詳しく説明します。分かりやすく話しを進めるために、まずは二点透視の「横」パースに触れておきます。この横パースはこれまでに散々論じてきたとおりの方法で作図できるはずです。視円錐を使った画角の決め方を解説するときも、いつも視円錐の横方向の軸を使って二点透視を作図してきました。ここで三点透視の縦パースを作図するのは、二点透視の横パースを縦方向に回転させればいいのではないかと思うかもしれませんが、半分正解で、半分不正解だと思います。

横パースを立てて縦パースにする

なぜなら、絵を描くときに用いるキャンバスの縦横のサイズが同じ寸法であることが殆どないからです。二点透視の絵を描くときは、2つの消失点を画面の両端に設定すれば、その絵は画角が約90°のものになると解説しました。しかし、画面の縦横の寸法が異なるとなれば、画面の上下の両端に消失点を設定するのは正しくないということは容易に説明できます。画面の左右の両端に消失点を設定したときを画角90°とすると、それは画面の横方向の幅が視円錐の直径であるということになります。では想像してみてください。横長のキャンバスの幅を直径とする円を描いたら、その円の縦方向はキャンバスに収まるかどうか。当然キャンバスからはみ出ます。となると、上下の両端に消失点を設定するということは画角90°より大きい、歪みだらけのパースになるということです。

視円錐の直径の決め方

半分正解で半分不正解というのは、つまり画面の上下の両端に消失点を設定するという手順で画角をコントロールすることはできますが、一般的には画面の左右の両端に消失点を設定して画角を決める方が「リアルなパースで絵を描く」ことに対して相性が良いということです。ここで勘違いしないで頂きたいのは、ここで言っている「画面の両端に消失点を設定した場合は画角90°になる」という考え方はあくまでパース理論を論じるための考え方であって、実際に絵を描くときには回りくどくなってしまうはずなので使いものにはならないということです。このような遠回りをしつつ、パース理論の理解を深めようという意図によるものです。

ちなみに、画面の縦横の寸法が一般的に横長のワイドで設定されているのもおそらく「人間が見る」ことに関係があります。簡単ですが仮説を立ててみましょう。人間に限らず眼球を使って周辺環境の状況を認識している動物は横に広い視野を持っているものだと思います。それは自然界で生存するためにはまず天敵や獲物を認識するために、地上の広い範囲を見なければならないからです。このとき、上下方向に視野が広くて何の意味がありましょうか。空から猛禽類が襲ってくるかもしれませんが、それなら聴覚を発達させたり、襲われにくいよう行動する本能を身につければ対処できますし、そもそも体が大きくて強いのでその必要がない動物が大半です。だから動物たちは視界を横方向に広げてより多くの地上の情報を集めているんだと思います。それは人間も同じで、そのため映像や絵の画面のサイズは横長に設定した方がリアルな感覚に近くなるということです。

要するに、画角を設定するときは二点透視の横パースと同じ方法で設定するべきだということです。たとえ画面サイズが横長だとしても、画角は縦横で同じ大きさになります。だとしたら、一旦横パースで画角を設定しておいて、その画角を縦パースに当てはめるという手順で考えると分かりやすいです。ここでは画角の考え方の注意点について説明しましたが、具体的な画角の大きさの設定については後ほど解説する予定です。

今回の考察をまとめると、パース作図の技術で描かれた絵と、人間が認識している風景との見え方は全く違っているということです。そして、絵としてよりよいものにしようとすると、人間が見ている風景に近づける方が違和感が少なくなります。ですので、パース作図の技術を勉強したことをお絵描きに応用しようとするときには、必ず人間が普段見ている風景はどのように見えているのか、ということを考えながら調整していく必要があります。これは観察力のある人なら日常から学ぶことができますが、アニメーターや映画監督の映像論に触れることも大変勉強になります。何を省略してよくて、何をしたらいけないのか、など、ちょっとやそっとの勉強では気付けない話に出会えるので面白いですよ。

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